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建築家 宮脇檀氏と和鋼博物館

2025.06.25

和鋼博物館は平成5年(1993年)に竣工、開館しました。この文章を書いている現在、建物は築32年となります。

建築設計は宮脇檀建築研究室によるもので、コンペにより5社の中から選ばれました。当時宮脇氏は約3か月間にわたり安来の地を歩き、その風土やたたら製鉄にまつわる歴史を学んだそうです。

 

建築家 宮脇檀(みやわきまゆみ)氏といえば、コンクリートの箱に木造の箱を組み込んだような一連の住宅設計「ボックスシリーズ」が有名です。
数多の受賞歴もさることながらエッセイストとしても活躍し、建築家という当時日本の工学屋な印象に反して、生活空間を繊細にユーモラスに見つめるセンスの持ち主でありました。

平成10年(1998年)、がんにより62歳という若さでこの世を去った宮脇氏にとって、和鋼博物館は後期の作品となります。

 

和鋼博物館 開館当時

 

和鋼博物館は鉄筋コンクリート及び鉄骨造2階建で、テーマは‟八雲立つ出雲の山々”とされています。

建物の内外いたるところに山型のもこもこしたシークエンスが見て取れ、さらに外装材が醸し出すソリッドな鉄の印象がこれに加わり、「和鋼」が持つ言葉の奥深さを体現しています。

※「和鋼(わこう)」とは東京帝国大学の名誉教授であった俵 国一(たわら くにいち)氏によって命名された言葉で、たたら吹きにより製造された鋼のことを指す。

 

 

全体を見渡すと、特に目立つのが向かって右手、高殿(たかどの)(たたら製鉄を行った建物)を模した「たたら棟」です。

屋根のてっぺんにのせた巨大な風向板は現在でも日々その向きを変え、風を可視化します。

スチール製で横幅が5.8メートルあり、避雷針を備えます。人と対比すると驚くべき大きさ!重量は不明。

大胆不敵なこのオブジェクトは、勾玉や雲をモチーフにデザインされています。

 

和鋼博物館 建築

 

屋根全体は特注サイズの鋼板で葺いており、ギラリと硬質な雰囲気でありながら滑らかに湾曲した屋根形状を作り出しています。
施設管理を行う筆者にとって、「特注」とか「規格外」という言葉の響きは耳痛いものですが、このデザインあっての和鋼博物館なのだ。

…と自分に言い聞かせています。

この棟は、四隅の角が穏やかな正四角柱で、一辺が約20メートルあります。

建物を見上げるたびに、この大きな屋根の施工シーンはさぞダイナミックなものだっただろうと思いを馳せます。

巨大な方形屋根を支える堅牢な骨組みは、大きさと言い色と言い、まるで生き物のようです。外壁の淵に器用に足先を載せて鎮座する巨大な生物。

今となっては屋根材に封じ込められひっそり建物を守っています。

 

この屋根の真下にあたる第2展示室はさらに驚くべき展示になっているのですが、それはまた別の回にお話します。

 

 

 

 

 

 

当時、計画・施工段階では「産業考古館(仮称)」という名称で進められました。

「和鋼博物館」という名称に決定したのは開館約1年前。

名称は全国から一般公募して決定しており、応募総数は2,101点にのぼったという記録を発見し、一大プロジェクトだったことを再認識。
採用された「和鋼博物館」のほかには、「和鋼科学館」、「和鋼文化館」、「鉄のドリーム博物館」などがあり、これらは優秀賞に選出されました。

和鋼博物館 友の会

たたら製鉄を起点とする歴史・産業・文化に関する知識を高めるとともに、会員相互の親睦を図りながら和鋼博物館が行う活動を支援し、その普及発展に寄与することを目的として活動しています。